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多焦点眼内レンズとは
2025.10.29
白内障の手術では、濁ってしまった水晶体の代わりに「眼内レンズ」という小さな人工のレンズを入れます。
一般的なレンズ(単焦点レンズ)は、遠くか近くのどちらか一方にしかピントが合いません。
そのため、手術後もメガネが必要になることがあります。
一方、多焦点眼内レンズは、遠く・中間・近くなど、複数の距離にピントを合わせられるよう設計されたレンズです。そのため、日常生活の多くの場面でメガネに頼らずに過ごせるようになります。
回折型
現在の主流の多焦点眼内レンズの形になります。「回折型(かいせつがた)」多焦点眼内レンズは、レンズ表面にとても細かい同心円状の段差(ステップ)が刻まれた特別な構造をしています。この段差が光を複数の焦点に分けることで、遠くも近くもピントを合わせられるようにする仕組みです。
🔬 仕組みのイメージ
光はレンズの表面で回折(かいせつ)と呼ばれる現象を起こします。この現象を利用して、ひとつの光を「遠く用」「中間用」「近く用」に分け、それぞれの距離で焦点を結ぶように設計されています。
たとえるなら、レンズの中に“遠く用・近く用のメガネ”が同時に組み込まれているようなイメージです。
🌈 特徴
遠くから手元までバランスよく見えるように設計されています。明るさや瞳の大きさに左右されにくく、安定した視力が得られます。
💡 注意していただきたい点
・光を複数に分けて使う仕組みのため、暗い場所ではコントラスト(くっきり感)が少し下がることがあります。
・夜間に光がにじんで見えたり、まぶしく感じたりする(ハロー・グレア)ことがあります。
・とくに夜間の運転などでは、明るさの変化に少し慣れが必要な場合があります。
アポダイズ回折型
アポダイズ回折型眼内レンズとは、光のエネルギー分配を瞳孔径(ひとみの大きさ)に応じて滑らかに変化させるよう設計された多焦点眼内レンズ(IOL)です。レンズの中央部から周辺部に向かって回折段差(ステップ)の高さを徐々に低くしていく設計が特徴です。
🔬 構造と動作原理
● 中央部(回折ステップ領域:a)
中央から外側に向かうにつれ、回折段差の高さが低くなるよう加工されています。この領域では遠方と近方の光をバランス良く分配し、明所での多焦点効果を担います。
● 周辺部(屈折領域:d)
回折構造を持たない単焦点(遠方)屈折領域であり、瞳孔が拡大した際により多くの光を遠方に導きます。これにより、夜間や薄暗い環境でも遠方視が明るく鮮明に保たれます。
⚠️ 近年アルコン社やジョンソンアンドジョンソン社が採用しなくなった理由
1.瞳孔径への依存性が高い
光分配が瞳孔の大きさに連動するため、年齢・個人差で性能が不安定になりやすい。
2.小瞳孔では近方効果が出にくい
中心径3.6mm程度の回折構造が十分に働かないケースでは、近方視が得られにくい。
3.設計の単純化と光効率の向上
Alcon社はアポダイズ設計を廃止し、非アポダイズド回折構造+ENLIGHTEN®技術を採用。PanOptix®では光エネルギーの約88%が網膜に到達し、遠方パワー配分44%で遠方視力を補強しています。
例)ファインビジョンHP(FINE VISION HP)
回折型EDOF
回析型多焦点レンズでは、焦点が段階的になることで「ぼやけ」や「見え方の谷間」を感じる場合がありましたが、回析型と焦点深度拡張(EDOF)型を組み合わせることで遠・中・近の3つがより鮮明に、自然に見える設計になっています。
例)テクニスオデッセイ(TECNIS Odyssey)
焦点深度拡張型(EDOF)眼内レンズ
焦点深度拡張型レンズ(EDOF: Extended Depth of Focus)は、より“自然でなめらかな見え方”を目指して開発された、新しいタイプの眼内レンズです。
従来の多焦点レンズのように「遠方・中間・近方」と複数の焦点を作るのではなく、遠方から中間距離までを一つの連続した焦点域として広げることを目指した設計が大きな特徴です。
各メーカーが独自に工夫した光学技術により、夜間に気になりやすいハロー・グレア(光のにじみ)を抑えつつ、遠くからパソコン距離までを滑らかにつないだ自然な見え方が得られやすい点が魅力です。
このため、日常生活で使用頻度の高い遠方〜中間距離の見え方が安定し、手元作業以外の場面では負担が少なく過ごせる方が多い傾向があります。
一方で、読書や細かい作業といった近方視はやや弱めとなるため、従来の2焦点・3焦点レンズと比べると老眼鏡をご使用いただく場面がやや増えることがあります。
自然な見え方を大切にしつつ、夜間の視機能にも配慮したレンズとして適していると考えます。
例)クラレオン ビビティ(Clareon Vivity,テクニス ピュアシー(TECNIS PureSee)
ミニウェル(Mini WELL),エボルブ(EVOLVE)
屈折型多焦点眼内レンズ
屈折型レンズは、レンズの中に遠く用と近く用のエリアが配置されていて、そのエリアに光を振り分けることで、遠くと近くの両方にピントを合わせられるようにつくられています。
🔍 レンズの構造
屈折型の多焦点レンズには、大きく分けて2つの仕組みがあります。
① 同心円状タイプ
レンズの中心から外側に向かって、遠くを見る部分 → 近くを見る部分というように、異なる屈折力の領域が“リング状”に交互に並んでいます。
② 上下分割タイプ(例:Lentis Mplus)
レンズの上半分が遠く用、下半分が近く用というように、2つの領域が上下に分かれたデザインです。
👀 見え方の特徴
遠くのコントラスト(くっきり感)が出やすく、若い方でより効果を発揮しやすく(瞳孔の働きと関係があります)暗い場所では見え方が変わります。全体として、遠くを見るときに安定した見え方を得られやすいレンズです。
✨ ハロー・グレアについて
光がにじんで見えたり、まぶしく見えたりする「ハロー・グレア」と呼ばれる症状は、屈折型でも起こることがありますが。Lentis Mplus のような上下分割タイプでは、ハロー・グレアは比較的少ないと言われています。
🌙 上下分割タイプ特有の「ゴースト」について
Lentis Mplus のようなレンズでは、ゴーストと呼ばれる薄い影が重なって見える現象が出ることがあります。これは、レンズの境界で光がわずかにずれることが原因で具体的に文字の下にうすく影がつく、ダブって見えるように感じる症状です。